日本小児神経学会
English サイトマップ
関連リンク集
入会手続きはこちら
このホームページについて

Q32:発達障害の子どもの薬物療法について教えて下さい。

1.どういう状態の子どもに対して、どういう薬が用いられるのでしょうか?

 薬物を使用する目的としては、子どものメリットをまず第一に考えるべきであり、家庭や学校・園で著しい適応障害がある、自己や他者に身体的危険が及ぶ可能性が高い時などです。また、服薬のコンプライアンス(決められたとおりに薬を飲むこと)を高めるために必ず保護者の同意と協力はもとより、できればさらに子どもへの説明と納得を得ておくことも大切です。

 自閉症スペクトラムの子どもでは、環境理解の悪さ、因果関係の理解困難などから、物事の見通しが立たず常に不安な状態にあることが多く、イライラ感やパニックを引き起こします。また、状況判断の間違い、コミュニケーションの障害から被害感を生じ、乱暴な行動、攻撃行動が見られることもまれではありません。この攻撃行動が内に向かえば自傷行為となります。乱暴な行動の背景にいじめやからかいが潜んでいる可能性にも注意を払うべきです。「こだわり行動」は生活に支障のないものは放置してもかまわないですが、「こだわり」のため家庭や学校・園での生活の流れに支障をきたす場合には治療の対象となります。「こだわり」がひどくなる原因として、子ども自身が環境の理解ができていないためであることが多いので、その対策をとることが先決です。生活をする中でのストレス、「うつ」やPTSD(外傷後ストレス障害)も多く、大人の「うつ」と違ってイライラ感として現れやすい特徴があります。自閉症スペクトラム障害のある子どもでは多動性・衝動性や不注意を伴うことも多く見られます。

 実際に使用される薬剤とどのような症状に使用されるかを簡単にお示しします。少し、薬剤名や難しい用語も出てきますが、お子さんの治療の参考として下さい。

1) 中枢神経刺激薬
自閉症スペクトラムに併存した注意欠陥多動性障害の多動性・衝動性や不注意に対し、メチルフェニデート徐放剤が使われます。刺激薬ではないですが、アトモキセチンも多動や不注意に使用されます。

2) 抗精神病薬
定型抗精神病薬(ハロペリドール、クロールプロマジン、ピモジド):多動・衝動性や反抗挑戦性障害、チック、こだわり行動に使用されます。

3) 非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール):自閉症スペクトラム、行為障害、反抗挑戦性障害、双極性障害にみられる攻撃性、興奮、自傷およびチックに使用されます。ただし、保険適応外使用になります。

4) SSRI(フルボキサミン、パロキセチン)、SNRI(ミルナシプラン)、三環系抗うつ薬(イミプラミン、クロミプラミン):こだわり行動、うつ、不安障害などに使用されます。最近は三環系抗うつ薬は副作用の面から使用は少なくなっています。抗不安薬、SSRI、ベンゾジアセピン系(ジアゼパム、クロキサゾラム、ロラゼパム、クロナゼパム):不安、心身症、抑うつ、睡眠障害、緊張、PTSDに使用されます。

5) 抗てんかん薬(カルバマゼピン、バルプロ酸、クロナゼパム)
気分変調、躁うつ、てんかん発作、イライラなどに使用されます。

6) 抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン、ジプロヘプタン)
不安、睡眠障害に使用されます。

7) 循環器用薬(クロニジン、プロプラノロール、グアンファシン)
興奮、不安、攻撃性、自傷、チック、PTSD、多動・衝動性などに使用されます。

8) その他
コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル):認知障害、実行機能を補助します。
リチウム:攻撃性、自傷、うつ、イライラに使用します。

2.投薬によってどのような効果が得られますか?

 中枢神経刺激薬は多動性のある子どもに使用されますが、時に状態が悪化することもあるので、その場合には直ちに中止します。有効な場合には行動の統制がなされ、環境に対する理解が促進し、混乱状態がなくなり、霧が晴れ頭がすっきりしたと表現するような子どももみられます。
 攻撃性、多動性・衝動性、興奮などは環境の理解に困難をきたして混乱をした状態で起きやすく、周りを巻き込んで様々なトラブルを引き起こします。また、心理、教育的な治療に導入が困難な状態になることもあります。抗精神病薬、循環器用薬などによる治療は、このような行動上の問題を抑制、緩和するのみならず、子どもたちの精神的ストレスを減らしこころの安定をもたらします。さらに治療教育への導入を容易にします。

 自閉症スペクトラムの子どもは、表情の読み、言語化されないジェスチャーや仕草・態度などの非言語性の変化に気づき対応する能力の欠如、通常無意識下で自動的に行われる社会性の認知がうまく行われないなどの問題があり、自分の置かれた環境への理解が困難です。また、想像力の障害から見通しが立たず近い未来に起こることの予想が立ちにくいという特徴を持ちます。このような状態から不安感が強く、このことがストレスとなり、常に精神的緊張状態に置かれる結果、些細なきっかけでキレルことも多いです。さらに、言葉を話すことのできる子どもでも、多くの場合は適切なタイミングで話したり、簡単な言葉で自分の意思を説明することが苦手であることからイライラ感なども起きやすくなります。薬物による不安の軽減は突発的で爆発的な行動上の問題を少なくします。ネガティブな体験でなく、ポジティブな体験を重ねることにより、被害的な感情と自己防衛反応から攻撃的になることが阻止され、自信と共に気持ちの余裕ができ、人の意見を受け入れやすく受容的となります。しかしながら、薬物療法だけでなく、子どもが環境を理解しやすくなり、コミュニケーションしやすくなる、見通しが立ちやすくなるようにするために、環境の構造化、自閉症の理解の促進、社会技能の訓練、コミュニケーション技能の訓練なども同時に行うことが重要です。さらに、ストレス、不安、イライラ、「うつ」を和らげ、子ども達のサポートする心理的ケアや、子ども達自身からこれらを解消しうる良い趣味を持たせることも求められます。

(徳島赤十字ひのみね総合療育センター 橋本俊顕)


理事長からのご挨拶
賞に神経科医が主に専門としている病気について
小児神経科医のいる施設
小児神経Q&Aコーナー

PDFファイル閲覧ソフトAdobe Reader(無料)はこちらからダウンロードできます。

Copyright @ 2005 日本小児神経学会 Japanese Society of Child Neurology