日本小児神経学会
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Q28: 重症の障害をもつこどもさんの問題1

Q28-1重度の障害を持つこどもです.便秘がひどくて,浣腸をしないと便が出ません.どういうことに注意すれば良いでしょうか?便秘を放っておくと体に良くないでしょうか?

A: 重度の障害を持つお子さんには,慢性的な便秘になりやすい多くの理由があります.寝たきりであまり体を動かさなければ腸への機械的な刺激も少なく腸のぜんどう運動や便意が弱くなりますし,筋緊張の異常をともなう運動障害のため腹圧がかけられない(すなわち踏ん張れない)お子さんが多いでしょう.また,このようなお子さんの多くは口の動きや食べものを飲み込む機能が低下していることに加え,胃食道逆流(胃の内容物が食道に逆流すること)を起こして吐きやすいなどの理由から,食事や水分が十分に取れないことも多くなります.食物繊維の摂取が少ないと便量が少なくなり,水分摂取が少ないと便が固くなるため,いずれも便秘の悪化につながります.筋緊張の亢進(筋肉のつっぱり)にともなう痛みや,重度障害のお子さんでしばしば見られる夜間の不眠が自律神経に影響し,腸のぜんどう運動を抑えて便秘の原因になることもあります.
 したがってこれらの原因に対応していくことが,便秘に対する家でも可能な注意点・対処法ということになります.運動を促したり,体を起こす時間を設けるような姿勢の工夫が大切です.もし理学療法などを受けられているなら療法士さんと相談するのも良いでしょう.腹部マッサージを定期的に行うのも効果的です.そして何と言っても食事内容や水分摂取量の見直しが大切です.食事はやはり食物繊維の多い食品が望まれます.豆,野菜,海藻,きのこ類などが食物繊維の多い物としてあげられます.また乳酸菌類やオリゴ糖を含む食品にて腸内環境を整えることも大切です.経管栄養をされている場合にも,同じ観点から経管栄養剤の種類や注入水分量などを再検討してみましょう.もし口からの食事・水分摂取がうまく進められない時には,便秘だけでなく脱水や誤嚥(食べものが気管に入ってしまうこと)による肺炎などにも注意が必要になりますので,一度お子さんの摂食機能につき主治医に相談してみましょう.また,あまり意識されない方が多いのですが,筋肉の過度の緊張や睡眠障害に的確に対応することで自律神経機能が安定し,便秘も改善したお子さんが数多くおられます.一日の生活リズム全体を見直し安定させることは頑固な便秘に対応していく上でも極めて重要な要素となります.これらの日常的な対応によりうまくいかない時には下剤や坐薬,浣腸などの薬剤を用いることになりますが,その時にも使用する時間帯を一定にして排便習慣を一日のリズムの中に組み込むことを意識するとより効果的でしょう.
 便秘は誰にでもあることと甘く見ていると,容易にお腹の張り,嘔吐,食欲不振,腹痛,そしてこれらの体調の悪さに伴う筋緊張の亢進・発汗,などの症状を呈してきます.またこのように重度の障害を持つお子さんの場合は慢性的で強度の便秘がイレウス(腸閉塞)という重篤な状態につながることもあります.これまで記してきた事柄に配慮しながら積極的に対応し,それでもうまくいかない時には主治医にご相談されることをお勧めいたします.

(北海道立旭川肢体不自由児総合療育センター小児科  田中 肇)


Q28-2重度の障害を持つこどもです.夜になかなか眠ってくれず,毎日とても困っています.家で気をつけられることはあるでしょうか?睡眠薬を使っても良いのでしょうか?

A: 睡眠のコントロールは脳によりなされるので,脳に重度の障害を持つお子さんは必然的に睡眠の問題が起こりやすくなります.また脳の問題に加えて,体を動かすことの少なさや刺激に対する反応の弱さから日中の活動性が低くなり,時に細切れに眠ってしまったりするため,それが夜に眠れない原因となってしまいます.さらに重度障害を持つお子さんの特殊性として,運動麻痺により寝返りなどで自分の好む姿勢をとることができない,筋緊張の亢進(強い筋肉のつっぱり)が精神的な興奮や身体的な痛みを引き起こす,夜間の呼吸の問題(いびきや無呼吸など)が伴いやすい,といった多くの問題があり,その全てが入りにくさや夜間の目覚めやすさに結びつきます.
 脳の問題はともかく,その他の原因をできるだけ取り除くことが家でも可能な注意点・対処法ということになります.まず大切なのは睡眠環境を整えることです.室温,騒音などへの配慮はもちろんですが,重要なのは光の環境です.日中,特に朝起こしたらしっかりと明るい光を浴びてもらいましょう.そして眠るべき時間には光を落とし,明暗環境のメリハリをつけてあげましょう.眠る時の姿勢や筋緊張への対応も重要です.定期的な体位交換や,筋緊張が強くなりにくい姿勢のとらせかたなどにも配慮しましょう.眠る時の姿勢は呼吸の問題にも大きく影響します.もし理学療法などを受けられているなら療法士さんと相談するのも良いと思います.また,夜に眠らせること以上に日中での関わりを大切にする意識を持ちましょう.起きているべき時間帯のポイントは昼食前と夕食前です.ここで楽しく関わってあげることにより覚醒を促しましょう.特に夕方眠ってしまって夕食の時間がずれていくようでは夜に眠れなくても当たり前です.睡眠のことで悩んだ時には一日全体のことを考えましょう.食事の時間,日中遊ぶ時間,お昼寝の時間など全てを一日のリズムとして考え,調整していく考え方が大切です.
 医療的な治療を行う上でも重度障害を持つお子さんの場合には特別な配慮を要します.ご質問にありました睡眠薬は,薬の種類によっては分泌物が増加して呼吸のゼロゼロがひどくなったり,筋肉の緊張が薬により緩むことで舌根が落ち込んで気道を塞ぎ,いびきや無呼吸を強くすることがあります.このような呼吸上の問題はさらに睡眠障害を助長して悪循環になってしまいますので,睡眠薬をご自分の判断で安易に使用することは絶対に避け,必ず主治医の指示のもとに使用するようにして下さい.重度障害を持つお子さんの睡眠障害は,てんかんや便秘を悪化させたり筋緊張を強めるなど種々の二次的な問題につながります.逆に言うと睡眠の問題が改善すると付随する問題も改善するということであり,積極的な対応を心がけるべきです.ただ障害を持つお子さんの睡眠障害はなかなか手強くてご家庭での関わりだけでは解決できないことも多いのが現実です.そのような時には是非とも主治医に相談されることをお勧めいたします.

(北海道立旭川肢体不自由児総合療育センター小児科  田中 肇)


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