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Q16:最近の小児重症筋無力症の治療について教えて下さい

・初めに、重症筋無力症(MG)について簡単に説明しましょう。

 MGは自己免疫性疾患の一つです。ヒトは細菌、ウィルスなど外から入ってくるものに対して‘抗体’をつくり、それらの外来性の異物を排除していき、病気になることを予防し、また病気がなおります。これを司っているのが免疫系です。ところが、この免疫系に異常が発生しますと、自分自身の体の一部を外来性のものと区別できなくなり、自分自身の体の一部に対して抗体を作ってしまいます。この状況を‘自己免疫異常’といい、その機序で起こる病気を‘自己免疫性疾患’と呼びます。MGは神経筋接合部で筋肉の表面にあるアセチルコリン受容体に対する自己免疫性疾患です。
 MGは比較的稀な疾患で、20〜30歳台の女性に多くみられるのですが、我国では5歳以下発症の小児MGが多いことが知られております。
症状(臨床型)により、眼筋型、球型、全身型に分けられます。それぞれの主な症状は、眼筋型は瞼が下がってくる(眼瞼下垂)、眼の位置の異常(斜視)、物が二重に見える(眼の動きの制限)など、球型は声が弱くなる、物の飲み込みがうまくいかないなど、全身型は頸、四肢、体幹の力が弱くなるなどです。多くの場合これらの症状は夕方になると目立つ(日内変動)傾向があります。
 診断は上に記したような症状の特徴、テンシロンテスト陽性(テンシロンを注射することにより症状が改善する)からなされます。抗アセチルコリン受容体抗体は小児MGではしばしば陽性になりません(セロネガティブ)。誘発筋電図で‘易疲労性’を確認することにより眼筋型、潜在性全身型(症状は眼筋症状のみで、四肢の筋電図にて易疲労性を示す場合)、全身型(小児MGでは球型は全身型に含める)と臨床病型を区別します。

・治療

 主な治療法には、抗コリンエステラーゼ剤、ステロイド剤、他の免疫抑制剤、胸腺摘除術があります。どの治療を行うかは臨床型、発症年齢などを考慮する必要があります。潜在性全身型はしばしば全身型と同様な方法で治療する必要があります。
抗コリンエステラーゼ剤:
 純粋眼筋型の一部は抗コリンエステラーゼ剤のみで改善することがあります。また、いずれの臨床型でも治療の初め、または経過中、他の治療に加えて抗コリンエステラーゼ剤を使うことも少なくありません。
ステロイド剤:
 小児MGは臨床病型によりその比率は異なりますが、全体としてみますと、その60〜70%はステロイド剤にて完全に治療が可能です。
純粋眼筋型で抗コ剤にて改善しない場合、多くの潜在性全身型、10〜12歳以下発症の全身型はステロイド剤を要します。通常一日おきに朝食後1回服用します。服用期間は、多くの場合完全に中止可能になるためには数年を要することもあります。あまり速く投与量の減量、中止をすると再発することが少なくありません。慎重に経過をみつつ、投与量、期間、減量について決めていきます。ステロイド剤の副作用は、注意深く経過をみていくことにより、多くの場合、未然にまたは最小に食い止めることが出来ます。
近年パルス療法といってステロイド剤の注射がなされる場合がありますが、その有効性、行い方については系統的な研究結果はまだありません。
他の免疫抑制剤:
 ステロイド剤が無効の場合、またその減量により症状が出現する場合、副作用によりステロイド剤の減量中止を余儀なくされる場合、他の免疫抑制剤が考慮されます。近年2種類の免疫抑制剤が使用されるようになってきています。タクロリムスとシクロスポリンです。これらの薬は現時点では原則として小児には使うことができません。しかし、病状によっては慎重な医学的な判断のもとに使用が考慮されることもあります。
胸腺摘除術:
 成人MGではしばしば行われますが、小児では特に慎重にその適応を考慮する必要があります。10〜12歳以上発症の全身型で、抗アセチルコリン受容体抗体の上昇、また胸部の画像検査にて胸腺の拡大を見る時に多くの場合本治療法を要します。手術法として拡大胸腺摘除術がなされますが、近年胸腔鏡下にて手術が行われる場合があります。いずれの場合も胸腺組織の取り残しが無いことが重要です。また、潜在性全身型の一部でも胸腺摘除術を要することがあります。
血漿交換:
 重症例にて対症療法としてなされることがありますが、小児では血漿交換を要することは稀です。

・クリーゼの治療

 MGの経過中、治療中に呼吸障害が出現することがあります。これはクリーゼとよばれます。MGの増悪、または抗コリンエステラーゼ剤による場合があります。風邪などにより誘発されることが多く、口腔内の分泌物などが増え、呼吸が苦しくなります。このような時は緊急な状態であり、病院にて専門的な治療を要します。しかし、近年MGの治療にステロイド剤が導入され、クリーゼは大変少なくなっております。

・おわりに

 近年MGに関する臨床的、基礎的研究の知見の積み重ねによりMGの治療は大変改善してきております。正しい診断のもとに、適切な治療を出来るだけ早く行い、経過を慎重にみていくことにより小児MGは多くの場合治療が可能となってきております。

(瀬川小児神経学クリニック 野村芳子)


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