日本小児神経学会
English サイトマップ
関連リンク集
入会手続きはこちら
このホームページについて

Q15:脳性麻痺のボトックス治療について教えて下さい

・ ボトックスとは何ですか?

 ボトックスとは、2008年4月現在わが国で唯一販売認可されているボツリヌス毒素製剤の商品名です注)。ボツリヌス毒素は食中毒の原因物質として知られていますが、1980年代から本格的に医学へ応用され現在広く普及しています。その効果はからだの一部分に注射することで、異常な筋収縮に伴う症状を軽減したり、過剰な発汗やヨダレを抑えることができます。またシワ取りの美容へも応用されています。
(注: ただしボトックスは美容用シワ取り治療薬としても有名なため、商標を不正使用した商品(ボトックス・クリーム等)が少なからず流通していますので、十分注意して下さい。)

・ ボトックスは、どのように働くのですか?

 ボトックスをからだの一部分に注射すると、その局所において筋肉へ向かう神経の末端(あるいは自律神経の末端)にただちに取り込まれ神経を麻痺させます。その結果、注射された筋肉のみを弛緩させることができます。

・ ボトックスは脳性麻痺に対してどのような効果がありますか?

 脳性麻痺では筋肉の過緊張による異常姿勢によって、実際の運動麻痺以上に運動発達が強く障害されます。また後には関節拘縮や骨格変形が生じます。例えばかかとが床につかない(尖足)、股が開きにくい(ハサミ足)などの異常姿勢によって、2歳以降でも上手に立てないばかりか、数年後には尖足拘縮や股関節亜脱臼を生じ、整形外科的手術を余儀なくされます。あるいは首筋や背骨の捻転・そり返り(痙性斜頸)のため、摂食困難だけでなく側彎変形、疼痛や呼吸障害などをみる場合があります。ボトックスはこのような局所的症状に大変効果的で、治療1〜2週後にはかかとを着いて立つことや足を広げて立つことが可能となります。同様に首筋や背骨の姿勢を改善し、疼痛の軽減や側彎変形の進行を抑えることができます。ただしボトックスは、局所的な筋の過緊張には効果的であるものの、全身の過緊張を全体的に低下させることはできません。
 現在わが国で承認されているボトックスの脳性麻痺に関する適応症は痙性斜頸のみですが、2008年2月の厚生労働省小児薬物検討会議において、海外と同様に「2歳以上の下腿痙縮に伴う尖足」の適応が概ね同意され、近日承認される見通しとなりました。

・ ボトックスの長所と欠点を教えて下さい。

 ボトックス治療の長所は、手術的治療(選択的脊髄後根離断術、バクロフェン持続髄注療法、整形外科的整復手術)と比べて簡便に施行できるため、2歳の低年齢から早期に開始できることです。また将来手術的治療を受ける場合にも、事前にボトックス治療を受けることによって、手術を延期、簡易化あるいは回避する見込みが得られます。欠点は、約3ヵ月経つと効果が消失して元の状態に戻るため、3〜4ヶ月おきに注射しなければならないことです。また繰り返し治療を受けていると、体内にボトックスに対する中和抗体が産生され、治療効果が低下する可能性があります。

・ ボトックスの副作用はないのでしょうか?

 軽度の副作用として注射部位の一時的な発赤や腫脹をまれに認めますが、アナフィラキシー等の重篤な副作用は極めてまれで、用法・用量を遵守すれば概ね安全な治療といえます。しかしながら使用方法によっては、ボトックスの過剰効果による副作用をみることがあります。例えば治療量が多すぎると、かえって脱力しすぎてしまいます。また呼吸・嚥下障害をもつ重症心身障害児において痙性斜頸を治療する場合、薬液の浸潤による喉頭筋・咽頭筋の筋力低下が生じ、呼吸不全や誤嚥性肺炎が起こることがあります。したがって初回治療量は少量に設定し、また呼吸・嚥下障害が予想される患児では、治療後1週間程度の入院観察が望まれます。なお過剰なボトックスの効果は2〜3ヵ月で自然消失し、永続することはありません。

・ ボトックス治療はどこで受けられますか?

 ボトックス治療は、講習による認定を受けた医師がいる病院でなければ受けられません。1回の治療において10ヶ所以上の注射を要しますので、治療に非協力的な小児の場合、安全性や精神的外傷の軽減のために、鎮静薬の投与が望まれます。また治療と同時に十分な理学療法を行なえば、より効果的です。これらの要件を満たす施設で治療を受けられると良いでしょう。

(横浜療育医療センター小児神経科・神経内科 根津敦夫)


理事長からのご挨拶
賞に神経科医が主に専門としている病気について
小児神経科医のいる施設
小児神経Q&Aコーナー

PDFファイル閲覧ソフトAdobe Reader(無料)はこちらからダウンロードできます。

Copyright @ 2005 日本小児神経学会 Japanese Society of Child Neurology