日本小児神経学会
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知的障害を含む発達障害におけるインクルーシブ教育について

―日本小児神経学会としての意見―

1.日本小児神経学会と学校教育とのかかわり
 日本小児神経学会は、小児神経学という分野を通じて脳や神経等に障害のある小児の医療や医学研究に携わる専門家で構成している学会であります。1961年に創設され、2010年8月20日現在で会員数3,530名、うち小児神経専門医1,060名(2010年9月8日時点)から成っております。会員のほとんどは小児科医もしくは小児神経科医であり、さまざまな障害のある小児を診療している関係上、多くの会員が、必然的に学校教育とくに特別支援教育に、直接的、間接的に関与しております。
 とくに近年、発達障害のある小児の医療受診が激増しており、多くの学会員自らが専門外来において発達障害のある小児の医療を担当するとともに、広く一般の小児科医に対しても「子どもの心の診療セミナー」等の研修会を主催するなど、積極的に発達障害医療の普及にも貢献していると自負いたしております。本学会は発達障害医療に関係する学会の中でもっとも専門医数の多い学会でもあります。
 こうした活動を行っている日本小児神経学会では、このたび進められている「障害者の権利条約」の理念を踏まえた特別支援教育の在り方の検討について、大変関心が高く、障害者の権利条約批准とインクルーシブ教育の構築が混乱なく円滑に進められることを願って、障害のある小児の医療を担当する立場から、知的障害を含む発達障害における教育について、意見書を提出させていただきます。

2.障害のある小児の特性と教育的配慮
 障害のある小児では、さまざまな特性があり、その特性を熟知し、一人ひとりに合わせた教育環境や対処、教育的工夫などの配慮が求められます。以下に主な発達障害と知的障害において考えていただきたいことを説明させていただきます。
1)発達障害(発達障害者支援法上の定義)のある小児の特性と配慮
 たとえば、自閉症の小児の多くは、その認知能力に大きな偏りがあり、聴覚的な情報処理能力に比し、視覚的な情報処理能力や記憶力が優れているという特徴があります。その認知特性に合わせた教育環境の一つとして、教育活動の指示が視覚的にわかりやすく提示されていたり、教室内が視覚的にわかりやすく構造化された環境が必要とされます。想像力の障害があるので見通しが持てない状況や新しい環境での不安が大きいため、それを理解した対応も必要となります。また、自閉症の中には聴覚的な感覚の過敏性があり、特別な音に対して過度の嫌悪感を訴えたり、強い不適応症状を呈する小児があり(たとえば、嫌いなモーター音が聞こえてくる環境では、そのモーター音を出す器械のコンセントを抜きにいってしまうなど)、静穏な環境が良き学びのために不可欠であります。
 注意欠陥/多動性障害(AD/HD)では、多動、衝動性、不注意、感情コントロールが困難であり、様々な刺激に反応しやすい、やる気が続かない傾向があるなど理解が必要な特性があります。これは、本人の努力や意思の問題ではなく、本人の機能的特性であり、そのことを理解した上での声かけや環境調整が必要であります。
 学習障害は、読み書き、計算など学習能力のアンバランスが著明であり、その苦手さの把握とそれに応じた教育こそが学習障害のある子どもの成長に不可欠であります。
2)知的障害のある小児の特性と配慮
 知的障害のある小児では、言葉の発達が遅れていることが多く、具体的に分かりやすい言葉を用いて教示することが理解の促進や記憶の定着のために必要であります。体験的な学習はエピソードとして記憶されやすいため、体験を多くした学習形態を提供できる環境が求められます。また、その子の持っている可能性を最大限に伸ばすためには、通常の教育内容では不適切であることが多く、個々の能力を把握した上での、個々に適した教育課題が必須であります。知的障害と自閉症を合併した小児では、先に述べた自閉症の特性への配慮と、理解の困難さへの配慮が必要であり、充分な配慮がなされない場合には、著しい心理的な不安定さから自傷行動などの深刻な行動障害が生ずることが少なくありません。
 このような障害のある小児の特性を踏まえた教育は、特別支援教育によってより広範な障害に対して、一人ひとりのニーズに合った教育の充実が図られるようになったと、私たちは認識しております。医療者として特性を踏まえた教育の必要性を感じるのは、障害特性が理解されていないことに起因する心身症や、不登校などの二次的な不適応状態になっている小児を外来で診療することが多いからであります。それぞれの障害特性を把握し、一人ひとりの適性を考慮した教育的な支援を提供することが、子ども達の持てる可能性を最大限に引き出すこと、および不適応を予防することにつながると確信いたします。
 さらに、私たちが乳幼児期から診療している中には、精神遅滞という診断基準を満たすには至らない程度ではありますが、全般的な発達が遅い小児も多く存在しています。こうした子どもたちは、従来からの福祉施策においても、発達障害者支援法においても、支援の対象から抜け落ちてしまいますが、現在の多人数授業の中で必要な支援を受けられず、特別支援教育の対象からももれ、その力を伸ばされないままに育ってしまう憂慮すべき傾向があります。存在は目立たないのですが、社会的には大きくハンディを負ってしまう特性の子どもたちへの配慮が充分になされるような、教育環境が必要であります。

3.特別支援教育への期待と評価
 日本小児神経学会社会活動委員会では、2010年8月に日本小児神経学会評議員227名を対象としたアンケート調査を実施いたしました。94名(回収率41.4%)から回答があり、その結果を踏まえて、特別支援教育への評価と期待について概観すると、以下のようにまとめることができます。
 「特別支援教育が開始されて、障害のある子ども達に対する学校や教師の理解が深まり、さまざまな教育的な手立てが提供されるようになったが、障害のある子どもが楽しく学べる環境になったとは言い難い状況であり、二次的な不適応が軽減されるには至っていない。しかし、特別支援教育は障害のある子どもと家族にとって有意義であり、特別支援教育を廃止すべきであると考えるものは皆無であり、まだ不十分であるが教育と医療の連携が改善していると感じている」
 総じて、回答した日本小児神経学会評議員は、特別支援教育に大いに期待しつつもまだ不十分さを感じております。

4.インクルーシブ教育の実現に当たって
 前述のアンケート調査では、障害者制度改革の推進のための基本的な方向に記載されている教育に関する提案についての意見も調査しました。それを概観すると、インクルーシブ教育を進めていく上で、「通常学級での教育、通級、特別支援学級や特別支援学校など多様な教育上の選択肢を維持していくべきであると考えている」と集約されます。すなわち、障害者制度改革の推進のための基本的な方向に記載されている教育に関する提案に示されている「人間の多様性を尊重しつつ、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害者と障害のない者が差別を受けることなく、共に生活し、共に学ぶ教育(インクルーシブ教育)を実現する」には、現行の多様な教育上の選択肢を狭めることなく進められるべきであるとまとめることができます。

5.日本小児神経学会としての意見
 インクルーシブ教育の構築は、特別支援教育の中で進められてきたことのプラス面を継承・発展させ、マイナス面を検証し、問題点の改善を積み重ねながら、漸進的に進められていくべきであります。
 ここ数年、特別支援教育の進捗はあるもののニーズに追いついていないところがあり、さらに発展させるべきと考えます。たとえば、地域の学校の中にある特別支援学級、通級指導教室、通常級における特別支援の量や質の向上のほか、子どもの状況に合わせた少人数あるいは個別で行われる通常教育(通常の学習内容の教育)、通信教育による通常教育など、さらに多様な教育形態が考えられます。
 現行のシステムの中で就学相談を実施する際に、教育、医療、福祉の専門家は、子どもの状態を把握し、また、地域の就学先の実態に鑑みて意見を述べますが、この意見は原則として、家族と子ども本人が行う就学先の決定において、参考として尊重してもらうという位置づけが望ましいと考えます。この際、特別な配慮をするにしても、できるだけ、通常教育の中での教育が可能かどうかを模索することが望まれますが、個々に適切な教育を選ぶためにも、就学相談の制度は必要であります。
 さらに教育の過程では、子どもの発達や環境の変化により、子どもの問題点や必要な援助が変わってくるため、そのようなときは、速やかにそれに応じた援助をするべく、子どもの置かれている環境が、その子どもにふさわしいかを検証する仕組みをもち、問題があれば、子どもにふさわしい受け皿を提供し、さまざまな関連機関(福祉機関、医療機関など)が連携して、子どもを支えることが可能になるようなコーディネート機能を整備することが必要であります。
 また、インクルーシブ教育のさらなる推進のための必須な条件として、学校管理職、担任、特別支援教育コーディネーター、発達障害への専門知識を有する教員、養護教諭、校医、指導医などが、知的障害を含む発達障害への十分な理解をもち、十分な力をつけ、連携をとることが必要であります。少なくとも、特別支援学級、特別支援学校の教諭、特別支援教育コーディネーターなどは、特別支援教育の専門家である必要があり、それへ向けての教員の養成・研修制度などの一層の整備が望まれます。
 本学会は、これらの提言をすると同時に、改善策へ積極的に協力して行く所存であります。

 2010年9月15日

一般社団法人 日本小児神経学会
 理事長 大澤真木子


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