日本小児神経学会
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【緊急アピール】

子どもに被害映像を見せない配慮を!

―子どもの心を守るために、マスメディアの方にお願いしたいこと―

 はじめに、東日本大震災で被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。また被災された地域の一日も早い復興をお祈りいたします。

 本学会といたしましても、役に立てるような活動をしていく所存であります。その一環として、マスメディアの方に以下のお願いをしたいと考えます。

 今回の地震は東日本に広く生じたものであり、被災地以外のお子さんも揺れや停電を体験しています。そのため、そのニュース映像に触れたお子さんにも心的外傷が起こりえる状況にあります。マスメディアの方にはその点をご理解いただき、子どもの視聴に対してのご配慮をいただけたらと思います。

 報道を見ることによる子どもへの影響は、以下の特徴から来ると言われています。

[発達の特徴から]

・ 言葉での理解がまだ大人のようにできないため、映像や画像に伴う事実の把握ができず、その映像や画像の衝撃が大きい。
・ 自分中心に世界や物事を捉える特徴があり、自分の見たもの聞いたものが自分とは無関係であると思いにくく、すぐに自分の近くでも起きるのではないか、あるいは自分に何か責任があるのではないかと思ってしまう。
・ 時間感覚の発達がまだ途上であるため、過去の出来事を録画再生したものであるということが理解しづらく、今また起きていると思ってしまう。
・ 小学校中学年くらいのお子さんであれば、自発的にニュースやインターネットでの情報収取が可能であり、映像に触れる時間が増加する。感受性が豊かであるために、出来事に感情移入しやすい。

[脳の機能から]

・ 視覚・聴覚などの感覚刺激は視床などがフィルターとなって刺激の減弱などの処理をしていると考えられている。子どもの脳は発達が途上であるため、それらの機能も未発達であることが一般的に認められており、刺激過多の状況では許容範囲以上の刺激を取り込んでしまう恐れがある。処理能力を越えた量の映像は結果的に脳神経細胞の障害をきたすことになる。このことは、心的外傷を負った子どもに海馬の委縮が認められるという報告からもうかがえる。
・ 日常の出来事の認知的な要素は大脳辺縁系の海馬で保管され、情緒的要素は扁桃体で保管されるとされている。通常の出来事はそのことを考えたり話したりすることで右の大脳辺縁系から左の大脳新皮質へと移行していくが、生命の危機的状況に遭遇するとこの情報処理システムが壊れるという説がある。このような状態では、脳は副腎髄質に信号を送り、逃走逃亡反応(fight or flight response)を起こさせるような沢山のホルモンを発生させるとされており、この多量のホルモンは左脳にある言語や理解を司る部分の働きを妨害し、トラウマ体験は感情やイメージや感覚といったものを扱う右脳だけに閉じ込められてしまうと考えられている。それにより引き起こる子どもの様子は、言葉が出なくなる、音や匂いに敏感になる、悪夢を見る(しかしその内容などを言葉で説明できなくなる)などがあるとされている。

 この戦後最大の震災を体験している私たちは、大人も子どもも未だ大変なショック状態にあり、不安と恐怖と隣り合わせにいます。そのような中で、子どもを更に災害報道にさらすことは、脳への情報を更に増し、様々な身体症状を呈する原因となってしまうと考えられます。また、このような身体症状は子どもの健康な発達過程をも阻む可能性があり、より問題が複雑化してしまう可能性があると思われます。

 小さなお子さんが災害報道を見る機会をできるだけ最小に抑えられるよう、この事実を視聴者に伝えたり、「小さなお子さんには見せないでください」というテロップを付けるなどのご配慮をいただきたいと思います。

2011年3月25日

日本小児神経学会理事長

大澤真木子(東京女子医科大学小児科)

<引用・参考文献>

1)Baggerly, J. (Writer/Director). (2007). Disaster mental health and crisis stabilization for children [Videotape]. Framingham, MA: Microtraining Associates. (Available from 25 Burdette Avenue - Framingham, MA 01702).
2)Solomon, E. P., & Heide, K. M. (2005). The biology of trauma. Implication for treatment. Journal of Interpersonal Violence, 20(1), 51-60.
3)東京プレイセラピーセンター.(2011).災害報道と子ども.東京プレイセラピーセンターホームページ『保護者の方へ』2011.3.12.
http://www.tokyoplaytherapy.org/resources/災害報道と子ども.pdf
4)McLachlan, Neil; Wilson, Sarah.(2010).The central role of recognition in auditory perception: A neurobiological model.Psychological Review, Vol 117(1), Jan 2010, 175-96.

<その他資料>

1) Kathryn A. Becker-Blease, PhD.David Finkelhor, PhD.Heather Turner, PhD.(2008). Media Exposure Predicts Children's Reactions to Crime and Terrorism.Journal of Trauma & Dissociation, Vol.9(2), 2008.
2) Betty Pfefferbaum, MD, JD, Thomas W. Seale, PhD, Edward N. Brandt Jr., MD, PhD, Rose L. Pfefferbaum, PhD, MPH, Debby E. Doughty, PhD,and Scott M. Rainwater, MEd.(2003).Media Exposure in Children One Hundred Miles From a Terrorist Bombing.Annals of Clinical Psychiatry, Vol.15(1), March 2003.
3) Michael W. Otto, Aude Henina, Dina R. Hirshfeld-Becker, Mark H. Pollack, Joseph Biederman and Jerrold F. Rosenbaum.(2007).Posttraumatic stress disorder symptoms following media exposure to tragic events: Impact of 9/11 on children at risk for anxiety disorders.Journal of Anxiety Disorders Vol.21(7), 888-902, 2007.
4) Conway F. Saylor, Brian L. Cowart, Julie A. Lipovsky, Crystal Jackson, and A. J. Finch Jr.(2003). Media Exposure to September 11: Elementary School Students' Experiences and Posttraumatic Symptoms.American Behavioral Scientist August 2003 Vol.46 (12), 1622-42.
5) The National Child Traumatic Stress Network (アメリカの国立児童トラウマストレスネットワークによる津波とトラウマの情報。このページに、メディアに触れさせすぎないことの重要性が書いてあります。
http://nctsnet.org/sites/default/files/assets/pdfs/talking_with_children_about_tsunamis_final.pdf

情報提供:日本プレイセラピー協会、東京プレイセラピーセンター


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