日本小児神経学会
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「障害者自立支援法および発達障害者支援法に関する意見」

平成17年12月6日
〒162-0056 東京都新宿区若松町6-13 建和堂ビル2F
日本小児神経学会
 理事長 飯沼一宇

 日本小児神経学会は3300余名の会員を擁しますが、会員の多くが、障害児および成人障害者、発達支援を要する子どもたちの、医療、福祉、教育にかかわっています。平成17年10月末に成立した障害者自立支援法とそれに関連する問題について、また、平成17年4月に施行された発達障害者支援法とそれに関連した特別支援教育について、以下、学会として意見を表明し、適切な施策の実施に反映されるよう願うものであります。

1.障害者自立支援法について

 障害者自立支援法は、1.障害をもった人が障害種別による差に関わらず、できるだけ自立ができて、就労を含めて社会に参加し、個々にあった福祉サービスを地域の中で受けられるようにしていこうという社会の要請、および、2.従来の福祉制度にあるサービスの公平性や公費の適切使用の点での問題点等があり、その中で、社会の要請を果たすべく、必要なサービスが適切に継続的に実施できるようにとの趣旨から策定されてきたとも言えます。
しかしながら、本法は、支援費制度の財政的な破綻を直接的な契機として、急遽、提出されてきたものであり、以下のような基本的な問題点を有しています。
(1)新障害者基本計画(平成14年12月)で政府から示された障害児者への施策と制度の再構築の検討作業がまだ途上にある段階で唐突に提出されたものであり、障害児者への福祉・医療サービスの在り方についての基本的な検討の充分な積み上げの結果として策定されてきたものではありません。
(2)新障害者基本計画では、社会のバリアフリー化の推進、利用者本人の支援、障害の特性を踏まえた施策の展開、個々の障害・ニーズに応じた支援、行政相互の連携、広域的・計画的施策、施設体系の見直しなどが謳われていますが、今回の法案は、これらの基本的な事項を充分に踏まえたものではありません。
具体的には

  • 「障害種別での差を設けないサービスの一元化」は、一方で、それぞれの障害の特性を無視したものとなる危険性があります。(たとえば、重度知的障害を伴う自閉症の方と日常的な医療的ケアを要する重症脳性麻痺の方が混在するような通所サービスは、不適切です。)
  • 市町村が障害評価やサービス実施の主体となるとされています。しかし、サービスを評価・判断・提供する主体として、現段階では質的にも量的にも脆弱性を有する市町村に、基本を委ねることは、公平性のある適切な支援という理念が生かされない結果につながる危険性があります。(障害の種別によっては、市町村の枠を越えた広域的・計画的なサービスの提供・判断・実施が必要である場合が多い。また、障害の状態についての専門的判断・評価や、サービス内容についての判断機能という意味において、市町村はまだ成熟しているとは言い難く、さらに、市町村は財政的に脆弱である。)
  • 「措置」制度から「契約」制度へという、支援費制度発足において示された方向性を踏襲していますが、この方向性の中核的理念であった「自己選択・自己決定」がどのように保障されるのかが明確ではありません。
  • 施設体系について、現行の体系の中の妥当性あるいは必然性のある部分と、変革されるべき部分についての検討がなされないまま、新たな施設体系の枠組みが唐突に示されています。

 背景にこのような問題を持つ障害者自立支援法が今後実施されるにあたっては、以下のことが基本的に必要であると考えます。
(1)従来の障害児者福祉施策の対象から欠落していた精神障害等の状態も含めて障害種別での差を設けないサービスを目指すことは必要であるとしても、それと共に、個々の障害の特性を充分に尊重した施策や施設体系が検討されていくべきです。
(2)「障害」は自己責任ではないとの認識を基本とした国民的なコンセンサス作りが必要です。障害者福祉における中央集権的施策と地方分権化との調和の取れた在り方についての基本的な検討、広域性と地域性、一般性と専門性のバランスなどの、合理的な配慮すべきです。さらに自己決定・自己選択の基本理念を踏まえて、サービス提供やそのための評価について、国・都道府県・市町村が適切に役割を分担し、そして、本人・家族、専門家が協力し合意していけるような方向性と枠組みでの、施策の実施が望まれます。
(3)今後3年をかけて検討するとされている施設体系の見直しについては、知的障害者の状況などの実態が国からも適切に把握されていない等の状況も踏まえ、充分な実態把握をもとに、関係者・当事者の意見を充分に汲み上げて検討する、検討機関の設置が必要であると考えます。

 また、具体的問題として、会員の多くがてんかんや自閉症等の診療に直接携わる日本小児神経学会の立場から、新法に包含されるようになる精神保健法32条廃止・改定の問題について、および、専門医あるいは運営関係者として会員が深くかかわっている施設入所サービス等の問題について、以下の点をとくに主張します。

(1)精神保健法32条の関連での問題

 現行の精神保健法32条は廃止、大幅に改定され、障害者自立支援法案第58条の「自立支援医療」の一環となるとされています。その内容は、1.自己負担は原則10%、2.世帯所得によりさらに上限が設定される、3.「重度かつ継続する疾患」と認定されれば、さらに減免される、4.しかし、世帯所得税年額30万円以上の場合は「重度かつ継続」と認定されなければこれらの公費負担はすべて適用されない、となっています。「重度かつ継続する疾患」の状態として、統合失調症、躁鬱病、難治てんかんがそれに相当するとされていますが、検討中であると聞いております。
この結果として、多くのてんかんのケース、医療を必要とする自閉症やその他の発達障害、適応障害など、小児神経科医が診療に携わっている多くの疾患では、世帯所得税年額30万円以上の場合で、「重度かつ継続」であるとの認定が受けられない場合には、公費負担は受けられないこととなると危惧されます。現在32条の適応を受けている方の中には、適切な継続的な医療があれば、生活の質が向上し、できるだけの自立と社会参加が可能になる人も多くいます。しかし適切な医療を継続して受けることができなければ、さらに重症化する場合も少なくありません。重症化を防ぐ医療は本人のためはもちろんですが、社会の利益ともなります。小児神経科医など一定の専門性のある医師が、重大な問題と認識し継続的な治療が必要であると認める場合は、「それ以外の疾患」であっても重度かつ継続する疾患として自己負担分の軽減措置がはかられるべきと考えます。
また、新制度の自立支援医療における精神通院医療の適用される指定医療機関は一定の基準を満たすことが必要とされています。この基準の規定にあたっては、1.小児の患児の多数について、小児科医・小児神経科医がてんかん等の診療を担当している、2.成人でも、知的障害や脳性麻痺などの障害のある方の診療、それにてんかん等を伴う方の診療を、小児期から引き続いて小児神経科医が担当せざる得ない場合が多い、という実情が、充分に反映されるべきであります。

(2)施設入所サービス等の問題

 新法による新たな制度では現在の重症心身障害児者入所施設でのサービスは、「療養介護型(医療型)」と「生活介護型(福祉型)」とに分割され、現行のように医療と福祉の複合的な支えが必要であるとして医療と福祉の両面からの経済的基盤が確保されるのは、今後は「医療型」の施設とその対象児者に対してだけとなります。重症児者施設に現在入所している方でも「福祉型」サービスの対象であると認定されるケースがかなり出ると想定され、そのような方々は、「医療型」施設として多くは残る重症児(者)施設の対象では無くなるため、現在の入所施設を出るなどの処遇の変更が必要となりますが、その方々の今後の受け皿の整備には多くの困難が予想されます。現在は「福祉型」の対象児者であっても、加齢等により医療ニーズが急速に発生増加するケースがかなりありますが、「医療型」と「福祉型」の固定的な分割はそのような場合への対応を困難にします。現行制度でのサービス対象から漏れている成人期発症や重度知的障害を伴わない要医療の重度障害者が新制度では「医療型」施設サービスの対象として位置付けられるようになるという前進面はあるとしても、一方で、現在の入所者のうちのかなりの方たちへの処遇の困難化、施設運営の困難化、それによる入所サービス内容の低下、現在でも採算性の厳しい事業である在宅療育支援事業(ショートステイや地域施設へのスタッフの派遣など)の縮小化と後退、医療と福祉の両方のニーズを高く有するケースへの適切な対応の困難化などを、結果として生じてくる危険性が大きいと考えます。
 また、重度障害の方の通所には、医療ニーズの高い方がかなり通われており、看護師によるかかわりが必要とされていますが、通所が「生活介護」すなわち福祉サービスのみの場と規定され場合には、必要な看護師の配置も困難になります。この問題は、地域・福祉の場で増大する医療ニーズに、国としてどのように対応していくかという基本的問題にも通じるものです。看護師の充分な配置が可能な体制を保障しながら柔軟な医療的ケアの在り方の検討も含めた施策が必要であると考えます。

2.発達障害者支援法と、特別支援教育について

 今までの福祉・教育において、法的・制度的にも位置付けられにくかった、自閉症スペクトラム、学習障害、注意欠陥多動性障害に焦点をあて、小児期早期から成人にいたるまでの支援を行政の責務とした点に関しては発達障害者支援法の施行は大きな意義を持っています。しかし実際には、上記診断がつかない方(子どもを含め)でも、理解ある教育やかかわり、そして社会的援助を受けることができずに、適応障害や二次障害が引き起こされていたり、その力を発揮できずにいる方も多いのです。このような方たちにも本法が適応される必要があります。具体的には、軽度の知的発達遅滞、境界領域知能の方、明らかな診断はつけられないが発達上の問題がある方、また、自閉症スペクトラム障害等の可能性はあるが診断は保留とせざるを得ない子どもなどが該当し、このような方たちをも支援できるような法でなければならないと考えます。
 本法では、「発達障害」を自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害で、症状が通常低年齢で発現するものとしています。「発達障害」(developmental disability)は、本来の定義としては、知的発達の遅滞(重度〜軽度、境界域)、および、脳性麻痺等を含み、本法での定義より広い概念であります。本法では「その他これに類する」という表現で、対象を広げようという意図があるとも思われますが、実際の場面では、本法の施行の中で、前述したような軽度の知的発達遅滞、境界領域知能の方などに対しては、関係者の視野から欠落し、サービスが低下してしまう傾向が生じています。「発達障害」を広い意味で捉え返しながら、本法の主旨が生かされるべきです。
 様々な発達障害を重複してもつ方も少なくなく、また、特に軽度の障害では、状態像や診断名が変わることもありえます。幼児期には診断が確定できない場合もあります。二次障害としての精神疾患が生ずることもあります。これらのことを考慮し、知的障害、身体障害、精神障害、今回対象となった発達障害につき、一貫性のある支援ができるよう望みます。
 特別支援教育の現場においても、広汎性発達障害(PDD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断がつけば通級などの特別支援教育援助を受けることができるのですが、軽度〜境界域の知的発達障害などにより、実際にはPDDやADHDのある子どもよりも多くの教育的支援が必要な子どもが、同じ学校にいながら支援の教師も入らず普通クラスで対応されています。必要な教育的支援を受けられないでいるという、矛盾した現実があります。特別支援教育は、特定の診断がついた子どもだけでなく、「特別な教育的支援」を必要とする子どもたち全てに対して行われるべきものであるという視点の、関係者による共有、特に教育現場への周知徹底が必要です。
 現段階では、本法案を有効にしていく具体的な取り組みや行政的支援は不充分です。多数のPDD、ADHD等の子どもが、私たち小児神経科医を受診しています。診察や相談、学校への連絡等に多くの時間と労力を必要とするこれらの子どもへの診療は、社会的必要度の高いものです。しかし、このような必要度への社会的認識は稀薄です。とくに、行政サイドからのこの点についての認識と、条件整備が必要であると考えます。         

以上


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